トップページ > 2022年12月23日 食レポ!! やまぐち
食レポ!! やまぐち

柳井市編 汐まち鍋

山口県の各地域の新しい食、気になる食をレポート!! 第31回は柳井市編です。
今回ご紹介するのは、大畠地域(本土)と周防大島(屋代島)に挟まれた「大畠瀬戸」の名物料理「汐まち鍋」です。大畠地域といえば「釜めし」や「あなご飯」が知られていますが、特産の魚介のおいしさを思う存分楽しめるこの鍋料理も絶品なのだとか。
それでは大畠商工会兼大畠観光協会の職員、小嶋さんに「汐まち鍋」のあれこれを聞きに行ってきます!
取材をするきらりんのイラスト
まずは「大畠瀬戸」について教えてください。
「大畠瀬戸」は、柳井市の大畠地域と周防大島に挟まれた小さな海峡で、急潮と渦潮で知られています。潮流によって生み出された自然岩礁は豊かな漁場となっており、全国有数の釣りの聖地としても有名です。そのため、大畠は古くから漁師町として栄え、まちの飲食店や鮮魚店には、鮮度抜群の魚介類が溢れます。
大畠地域の写真

大畠地域は、至る所で瀬戸内海の絶景が眺望でき、写真愛好家が多く訪れるそう

大畠瀬戸の渦潮の写真

大畠瀬戸の渦潮。この急流が形成した自然岩礁は絶好の漁場として知られる

漁船が並んでいる様子の写真

漁船が並ぶ漁師町ならではの景色が広がる。大畠漁業協同組合では観光漁船も手配

新鮮な魚介類の写真

揚がったばかりの新鮮な魚介類。マダイのほか、マダコや高級食材「セトガイ」も有名

なるほど、海峡の恩恵を受けた地域なんですね。ところで、大畠瀬戸はマダイが有名と聞いています。
よくご存じで! 大畠瀬戸の急流で育ったマダイは、引き締まった身と強い甘みが特徴。その味は、「一度食べたら忘れられない」とよく言っていただいています。大畠観光協会では、毎年、100人の方にご参加いただく「鯛釣り大会」を開催していますが、毎回募集開始数日で定員オーバーになるほど大人気なんですよ。また、大畠瀬戸では、マダイのほか、弾力のある身が特徴のマダコや高級食材のセトガイも揚がります。
揚がる魚介のラインナップが素晴らしい! もしかして、「汐まち鍋」はそんな食材たちが一気に味わえる鍋なのでは…?
その通り! 大畠瀬戸の恵みを「これでもか!」と使用した特別な鍋なんです。
それは食べるのが楽しみです! でもその前に、「汐まち鍋」を開発した理由をお聞きしてもいいですか?
大畠地域は、広島・岩国方面と柳井市を結ぶ国道188号の要所に位置し、柳井市の観光振興における重要な拠点。そこで、観光振興において重要な要素の「食」を強化しようということで、名物料理を誕生させることにしたんです。
「名物料理でもっと観光客を呼ぼう!」ということですね。どんなふうに開発されたんですか?
大畠商工会の観光部会と地元のいくつかの飲食店で「特産鍋開発特別委員会」を立ち上げ、みんなで意見を出し合って、大畠の特産である魚介類をふんだんに使った鍋にすることを決めました。その後、開発を進めてはいたのですが、いくつかの課題に直面し、計画は途中で頓挫…。実のところ、一時は構想自体の立ち消えも危ぶまれたんです。
そんな危機があったのですね。それでも完成できたのはなぜですか?
「どうしても名物料理を作りたい!」という委員たちの熱意です。必死の呼び掛けでどうにか再開し、大畠のメイン特産である「タイ」の素材本来の味が堪能できるシンプルな海鮮鍋を目指すことに。その後、話し合いと試作を重ね、ようやく理想の味を完成させるまでに、半年以上を費やしました。
皆さんの熱意があったからこそ完成した鍋なのですね。「汐まち鍋」は提供する店舗によって内容が異なると聞いていますが、何かルールはあるのですか?
いい質問ですね! 「汐まち鍋」には五つの定義があり、それに沿って提供される鍋のみが「汐まち鍋」と認定されます。
その五つの定義、ぜひ教えてください!
「汐まち鍋」の五つの定義は、
一、大畠瀬戸および近海で育った天然ダイを使用すること。
一、スープにはタイのアラなどから取った「タイのエキス」が入っていること。
一、スープは塩味であること。
一、龍宮の西の門「大畠瀬戸」にちなみ、龍宮城をイメージし、天然ダイのほか、エビとタコを入れること。
一、渦潮をイメージし、ハクサイは渦状に巻いて提供すること。
です。
ほか、時期によっては大畠特産のセトガイや急流で育った生のワカメなどを具材に使う店舗もあります。どの店舗でも大畠瀬戸の旬を堪能できること間違いなしです!
うわー! 味や素材だけでなく、龍宮城や渦潮のイメージも盛り込まれたワクワクする定義ですね。ところで、「汐まち鍋」というネーミングの由来は何ですか?
古代日本の航海において、潮流の速い箇所で潮の流れが変わるのを待つ港のことを「潮待ち港」と呼んでおり、瀬戸内海には多くの潮待ち港があったと言われています。そして、その代表的な潮待ち港がここ、大畠瀬戸でした。急流で育ち、身の締まったおいしい魚のイメージを表現するなら、この「潮待ち」を使わない手はないなと。さらに風情と親しみやすさ、やわらかさをプラスするために、「汐まち」という表記に変え、「汐まち鍋」となりました。
「汐まち鍋」、確かにパッと聞いて潮流がイメージでき、航海のロマンも感じます。では…、試食させてください!!!
汐まち鍋の写真

いろんな具材が入って華やかな「汐まち鍋」(2人前)。魚介だけでなく野菜もたっぷり!

汐まち鍋に入ったマダイの写真

大畠瀬戸のマダイが豪快にイン! 尾頭付きなのでお祝いの席にも良さそう

おお、すごい! マダイの尾頭が豪快に入り、ビジュアルからもタイのだしがたっぷりなのが伝わってきます。
華やかさから龍宮城を想像してもらえたらうれしいです。まずはスープから味わってみてください。
澄んだ黄金色をしたスープの写真

澄んだ黄金色をしたスープは、タイのうま味が凝縮された塩味。あっさりながらコクがある

肉厚なマダイの写真

急流で育った肉厚なマダイはふっくらふわふわ。煮崩れないのは身が引き締まっている証

すごい透明度! きれいなスープですね。ふわっと広がる魚介の心地よい風味とタイのうま味がたまりません!
だしは、タイのアラ、昆布、かつお節からとっています。それに薄口しょうゆとみりんで味をつけたシンプルなものですが、他の具材のうま味も合わさることで、よりおいしさが増していると思います。
全部飲み干したくなるおいしさです。これは今からシメの雑炊が楽しみです。次は、タイをいただきますね。箸で持ち上げると、想像以上に肉厚なのが分かります。肉厚だけどふっくらやわらか、これはぜいたくですよ。では一口で…、おいしい!
身がしっかりしてるでしょう? これが大畠瀬戸自慢のマダイです。一般的なタイより味も濃厚じゃないですか?
確かにタイ本来の味がしっかりと感じられます。刺身で味わえる新鮮なタイをこうして鍋で味わうなんて、まさに至福のひと時ですね。
次は野菜をぜひどうぞ! スープとの相性がバッチリですよ。
 
大畠瀬戸の渦潮を表現したハクサイの写真

ハクサイを巻き、大畠瀬戸の渦潮を表現。こちらでは薄く切ったダイコンとハクサイでニンジンを巻くスタイル

シメの雑炊の写真

スープのうま味を余すことなく味わえるシメの雑炊。満腹でも箸が止まらないおいしさ

渦状にきれいに巻かれたハクサイがかわいい! 食べるのが楽しくなる演出です。ハクサイはシャキシャキとトロトロが同時に味わえる程よい食感。ハクサイの甘みがスープで引き立ちます。本当に相性バッチリですね。
マダイもエビもセトガイもハクサイも、どの具材も本当においしいのですが、どんなにお腹がいっぱいでも食べてもらいたいのがシメの雑炊です。たくさんの素材から溶け出したうま味がたっぷり詰まったスープで作る雑炊は絶品ですよ。
では、いよいよ最後の雑炊に…。うわわ、満腹ですけど箸が止まりません。魚介と野菜のうま味が目いっぱい溶け出したやさしいスープを、お米がしっかりと含んでいます。大畠瀬戸の恵みに感謝ですね。
さて、この「汐まち鍋」はどちらで味わえるのですか?
現在は、大畠にある「馳走 葉」、「鮮魚 網代」、「レストラン鳴門」、「旅館 海月」の4店舗で提供しており、提供方法や価格はそれぞれ異なります。天然ダイなどこだわりの食材を使うため、どの店舗も完全予約となりますからご注意を。
最後に今後の目標をお聞かせください。
大畠瀬戸の
「汐まち鍋」の知名度はまだまだです。まずは山口県民や近隣の県の方に知ってもらうことを目標に、その魅力を発信していきたいと思っています。「大畠の三大名物料理は、釜めし・あなご飯・汐まち鍋」とたくさんの方に言ってもらえるよう頑張ります!
今日はありがとうございました! 次は4店舗、食べ比べに挑戦したいです!

【取材を終えて…】

マダイ、マダコ、セトガイ、エビ…と、とにかく盛りだくさんの具材がうれしいこの「汐まち鍋」。龍宮城の浦島太郎気分を存分に味わうことができました。素材だけでなく、ビジュアルにもこだわった五つの定義からは、大畠の皆さんのユニークな人柄も感じられ、思わずほっこり。この先、「大畠に行ったら汐まち鍋を食べんとね!」と言われるくらい、メジャーになることを期待します!
さて、大畠と言えば、1500年前の大畠瀬戸を舞台とした「般若姫伝説」・「龍宮伝説」、萩の「松下村塾」と双璧をなした、僧月性が主催する私塾「清狂草堂(せいきょうそうどう)」でも知られます。また、至る所で瀬戸内海の絶景が眺望できる場所でもありますので、ぜひ一度足を運んでみてください。
「汐まち鍋はシメの雑炊まで行くべし」。足を運んだ際には、この言葉を思い出してくださいね!