周防大島町編 沖家室ひじき
山口県の各地域の新しい食、気になる食をレポート!! 第29回は周防大島町編です。
今回ご紹介するのは、周防大島町の南端に浮かぶ小さな島「沖家室島(おきかむろじま)」で収穫される沖家室ひじき。ヒジキといえば、火を通して煮付けなどにして食すのが一般的ですが、沖家室ひじきは水で戻してサラダで味わうのが一番のおすすめだそう。
「国内最高級ひじき」を掲げる沖家室ひじきの特徴や魅力、生産におけるこだわりなどを、生産者のお一人・榮大吾(さかえ だいご)さんにお聞きしました。
沖家室ひじきが収穫できる沖家室島はどんな場所なんでしょう?
周防大島町の南に位置する面積約1平方キロメートルの小さな島で、人口は100人程度です。江戸時代には参勤交代の本陣が置かれ、海上交通の要衝でした。また、古くから漁師町としても栄えてきました。漁師たちは島伝統の「かむろ針」で一本釣り漁を行い、釣り上げたタイは「かむろ鯛」と呼ばれて愛されてきたそうです。ちなみに、沖家室島の漁村は風光明媚なスポットとしても知られ、水産庁の「未来に残したい漁業漁村の歴史文化財産百選」に選定されています。
一本釣り漁業で栄えた自然豊かな沖家室島。漁港には一本釣り漁用の船が並ぶ
磯にびっしりと生えるヒジキ。機械が入らないので、収穫は手作業で
なるほど、小さいながらも歴史のある島なんですね。そんな沖家室島で収穫・生産される沖家室ひじきは、国内最高級ヒジキと聞いています。
日本で流通しているヒジキは、実はほとんどが外国産で、国産が占める割合は約1割です。つまり、そもそも国産ヒジキが非常に希少な存在です。沖家室ひじきは、潮通しの良い一級の漁場である沖家室島周辺の天然ヒジキの新芽を収穫して最高のものだけを厳選し、全ての生産工程を手作業で行っています。希少な国産、新芽のみを収穫してさらに厳選、全て手作業、これらの要素などから価格設定を行い、私たちは「国内最高級ひじき」と自信を持って宣言しています。でも、一番の理由はやっぱり「おいしい」という事実です。味も食感も抜群です。
新芽をさらに厳選して、しかも全て手作業!? それは間違いなくおいしいはず…。でも、新芽だけということは、収穫できる期間がすごく短そうですね。
ヒジキ漁を行うのは、12月から4月の5カ月間です。そのうち、12月に収穫した新芽の中から良質なヒジキを厳選して、みなさんにお届けしています。厳選したヒジキの量は、約1日分の収穫量になります。それだけ厳選に厳選を重ねています。
収穫だけでも大変そうですが、その後も作業は続きますよね…?
ここから先も長いですよ。次は収穫したヒジキから他の海藻やゴミを手作業でより分け、天日干ししていきます。数日間かけて天日干しするのですが、その間は、ひっくり返しては不純物を取り除くという作業を何度も繰り返します。完全に乾くと重量は約8分の1になるんですよ。
収穫したヒジキを数日間天日干し。その間、何度もひっくり返しながら不純物を取り除く
鉄釜に入れて鉄釘を刺して煮込むことで、一般的なヒジキより鉄分が豊富に!
そんなに重量が変わるんですね! でも、これで完成ではないですよね? 確かヒジキは熱を使った下処理が必要だったはず…。
その通りです! でもその前にうちでは数カ月から1年間、倉庫で熟成させてうま味を増やし、その後、大量の水で数回しっかりと洗って乾燥状態から元に戻したら、いよいよ蒸し煮をしていきます。市場に流通しているヒジキの約95パーセントがステンレス製の釜を使って煮込みますが、沖家室ひじきは昔ながらの鉄釜製法を採用しています。鉄釜に入れて鉄釘を刺して煮込むので、鉄分が豊富になるんですよ。約1時間半かけて煮込むのですが、ガスは使わず、島の山で採ってきた薪で火をたいています。
島の山の薪を使って煮込むなんて、とことん地元産にこだわっていますね。煮上がってすぐのヒジキもおいしいんでしょうね…。
ヒジキが煮立ってきたときの芳醇な香りはたまりません。でも、釜の蓋を開けるときが一番です。ヒジキの香りがぶわっと広がり、思わずひとつまみして口に運んでしまいます。あ、つまみ食いではなく、あくまで硬さのチェックです(笑)。この後は、いよいよ仕上げの乾燥です。
煮上がったヒジキを型枠に広げて製品の原型を作り、再び天日干し。完成まであと少し
手作業で一つ一つ袋詰めをしたら完成! ネット通販での直販にこだわる
ついにゴールが見えてきました! 国内最高級ヒジキの完成まであと少し!
煮上がったヒジキは重量を測り、型枠の中で均一になるよう広げていきます。ひたすら続くこの作業を終えたら、もう1回天日干しです。完全に乾燥したら、一つ一つ手作業で袋に詰め、ラベルシールを貼ってでき上がり! 今日はぜひ、水で戻すところからやってみてください。
では、水に浸して10分間…。わ! びっくりするほどふっくら肉厚。しかも水の中に全くゴミがありません。皆さんの作業の賜物ですね。
選りすぐりの新芽なので、ふっくらやわらかですよ。ゴミはみんなで血眼になるまでしっかりチェックしていますので、ご安心ください。まずは何も付けずにどうぞ。
水に浸して10分でふっくらツヤツヤに。箸で持ち上げればシャキシャキの張りも感じられる
ふっくらとしたやわらかさの中にもシャキッとした歯応えが。主役としての存在感はバッチリ
それでは一口…。あ!やわらかい。だけどシャキッとした歯応えもあります。とても食べやすくて、どんどんいけてしまいます。これは「サラダで食べてほしい」とおっしゃる理由がわかります。
ありがとうございます。次はサラダでどうぞ。市販のドレッシングをかけてもいいですし、ポン酢をかけてあっさりいただくのもおすすめです。
では、今日はポン酢で。おお! 合いますね。ものすごくさっぱりしてて、さらっといけます。思いっきり盛り付けてしまいましたが、あっという間に無くなりそうです。こんなにおいしくて栄養満点、しかも水で戻すだけで食べられるなんて、なんて万能な食材なんでしょう!
「水で戻してそのまま食べられるのは本当にありがたい」と多くの人からお声をいただいています。でも、ひと工夫してもおいしいんですよ。例えば、炊き込みご飯に水で戻したヒジキをそのまま混ぜて握ったおむすびも好評です。ポイントは、ヒジキを入れて炊くのではなく、ご飯を炊いてから混ぜること。こうすることで、よりヒジキのおいしさが引き立ちます。
おむすびの具材に。シャキシャキの食感、ほんのりとした風味で他の具材に負けない存在感を発揮
太くて肉厚な沖家室ひじきならではのふっくらとした炊き上がり。火を通しても美味!
ほぐした焼き魚、刻んだ大葉、カリカリ梅と一緒に混ぜ込んでおむすびにしてみたのですが…、これもおいしい! 焼き魚も大葉もカリカリ梅も個性のある具材ですが、沖家室ひじきも負けていません。このおむすび一つで手軽に海のミネラルと鉄分が取れるわけですから、忙しい朝や受験生の夜食にもいいですね。子どもたちも喜んで食べそうです。
サラダで食べられる最高級ヒジキを前に申し訳ないのですが…、どうしても煮付けも食べてみたい!!! 「沖家室ひじきは、煮付けにしないでください。」というキャッチコピーをよく目にしますが、煮付けにしてもいいでしょうか?
ぜひ煮付けにして味わってみてください(笑)。いつもと同じように調理していただくと、他のヒジキとの違いがよくわかると思います。
それでは、いつも通りに煮付けて…と。さて、一口。火を通してもふっくらしてる…。程よいやわらかさです! 生で食べられるほど高級なヒジキをあえて煮付けにして食べるなんてとてもぜいたくですが、煮付けも絶品。ヒジキそのものの質の高さが食感と風味から伝わってきます。いつものヒジキ煮とぜひ食べ比べてもらいたいですね。他にはどんな食べ方がおすすめですか?
パスタの具材にしたり、マヨネーズと和えてバケットに乗せたり、サンドイッチの具材として入れたりと、皆さんいろんな楽しみ方をされています。トッピングという扱いではなく、あくまでメインの具材として沖家室ひじきを堪能してくださってます。ちなみに、道の駅「サザンセトとうわ」のお弁当コーナーでは、沖家室ひじきと一本釣りの新鮮な魚を使用した丼が販売されています。その他、周防大島町内のいくつかの飲食店でも沖家室ひじきを味わうことができますよ。
お取り寄せしてもいいですし、周防大島町まで足を運んで食べるのもいいですね。今日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございます。ヒジキサラダのおいしさは感動ものでした。大変な生産工程ですが、これからもおいしいヒジキを食卓に届けてください!
【取材を終えて…】
取材にご協力いただいた榮さんは、神奈川県のご出身。以前は東京で政府系金融機関にお勤めだったそうですが、周防大島町に移住(Iターン)して漁師になったそうです。そんな「東京からやってきた脱サラ漁師」の榮さんが沖家室ひじきの生産に関わるようになったのは、周防大島町で出会った師匠に誘われてヒジキ漁に行ったのがきっかけだったそう。「気が遠くなるほどの生産工程を経てやっと誕生するこのヒジキには、魂が宿っていると感じました。それに何より本当においしかったんです」と榮さん。現在、榮さんたち沖家室ひじきの生産者は、「人口100名の高齢化率60パーセントの島から、世界に誇れる海藻を販売しよう」を合言葉に日々まい進中。2021年に通販事業をスタートしたこの沖家室ひじき、今後の成長が楽しみです!