トップページ > 2022年7月22日 食レポ!! やまぐち
食レポ!! やまぐち

周南市編 三丘文庫・三丘パン研究会

山口県の各地域の新しい食、気になる食をレポート!! 第26回は周南市編です。
今回ご紹介するのは、地産地消のパン作りにこだわる「三丘(みつお)文庫・三丘パン研究会」。小麦の生産から加工、販売まで全てを自分たちで手掛ける、全国的にも珍しい取り組みで注目されています。
それではさっそく、三丘文庫が誕生した理由やおすすめのパンなどについて、店主の徳永さんに聞いてみましょう!
取材をするきらりんのイラスト
三丘文庫外観の写真

70年続いた酒屋をリノベーションした店舗。「三丘パン研究会」の幟(のぼり)がはためきます

三丘文庫内観の写真

むき出しになった太い梁(はり)は圧巻! 店内にはブックコーナーやステージも完備

 
すごく立派な梁ですね! ここは古民家をリノベーションされたのですか?
もともとは徳永酒店で、私は3代目なのですが、長らく熊毛町(現周南市)の町職員をしていました。退職を機にリノベーションし、ずっとやりたかったクリエイティブスペースを作ったんです。オープンしたのは平成29年で、ブックスライブラリー、ベーカーリーショップ、ライブやコンサートの実施と、主に三つの要素を持たせています。地域の方々にレンタルスペースとしてご利用いただくこともあります。
なぜクリエイティブスペースをやりたかったのですか?
一番の理由は、地域に集える場所を設け、地域を元気にしたかったからです。退職する直前の3年間、私は周南市立中央図書館の館長でした。閉館後の図書館に音楽家を招いて無料の音楽会を開催していたのですが、退職後は途絶えてしまいました。もともと音楽が好きですし、「続けてほしかった」との声もありましたので、決断に至りました。それと、長年手掛けてきた地産地消のパン作りをきちんと発信するための基地が欲しかったということもあります。
パン作りはいつから? 始めたきっかけについても教えてください。
町職員時代、地元の方々から「地域に加工場を建てて、自分たちでパンを作りたい」と要望があり、「どうせなら国産小麦でパンを作ろう」と山口大学農学部の高橋肇先生に相談に行きました。お話の中で国産小麦の生産が非常に難しいと理解しましたが、どうしても諦めたくないと伝えたところ、高橋先生も一緒に「三丘で栽培した小麦で作るパン作り」に挑戦することになったのです。それが平成7年のことでした。その後、平成15年に「三丘パン研究会」を立ち上げて、この取り組みを広く公開することになり、それと同時に山口大学でも公開講座「小麦栽培から始めるパンづくり」をスタートしました。この取り組みは今もずっと続いています。
なるほど! そんな歴史があったのですね。現在、山口県では学校給食のパンは全て県産小麦で賄っていると聞いています。
そのとおり! 平成15年、山口県は「給食に県産小麦100パーセントパン」を達成しました。北海道に続く2番目という快挙です。達成時は「ニシノカオリ」でしたが、現在は「せときらら」になっています。これは本当にすごいことなのですが、県民にもあまり知られていないのが現実です。ですから、この三丘文庫で県産小麦「せときらら」のみで作ったパンを販売することで、少しでも知ってもらいたいと思ったんです。
店舗裏の小麦畑の写真

店舗裏の小麦畑。三丘文庫で販売されるパンはここで収穫した小麦のみを使用

店舗に並ぶ手作りパンの写真

25〜26種類並ぶ手作りパン。販売日はFacebookページで案内しているそう

では、ここに並ぶのは県産小麦「せときらら」100パーセントのパンなのですね?
そうです。しかも、「せときらら」は店舗裏の小麦畑で栽培しているんですよ。自分たちで生産し、加工し、販売するのが私たちのこだわりです。ただ、山口県には製粉工場がないので、製粉だけは広島県庄原市の製粉所にお願いしています。
全ての工程を自分たちでやっているなんて、それはすごい! 地域への思いがたっぷりと込められたパンなのですね。では、おすすめのパンを試食させてください!
それでは、三丘文庫の看板商品、食パンからどうぞ。
三丘食パンの写真

看板商品の三丘食パン。プレーン、オレンジピール、ヨモギ、ビーツの4種類があります

三丘食パンの断面の写真

きめの細かさと、ふっくらモチモチ食感が大好評! 小麦本来の甘味もしっかり感じられます

おお! 「三丘」の焼き印がかわいいです。普通より小型のサイズ感もいいですね。でも、手に持つとしっかりとした重さも感じますよ。外側から指で押したときの程よい弾力もいい!
そのまま食べても、焼いてもおいしいですよ。四つくらいに切った厚めのサイズで食べる方が多いようです。すごくやわらかいので切るのがちょっと難しいかもしれません。豪快にちぎって食べてもいいですよ!
分かりました! まずは二つに割って…。あ、断面がきめ細かくて美しい。ふんわりと甘い香りが漂います。食感は…、モチモチ感もありながらのフワッフワ! しかも程よくしっとりです。耳の部分もやわらかい。口の中にほんのりとした甘みが広がります…。
ありがとうございます。石窯を使って10分程度で焼き上げるんですよ。なので、水分量が程よく残り、この食感に仕上がるんです。でも、やっぱりこのおいしさは小麦の力。三丘産の小麦は香りが強く、味が引き立つんです。食べていただいたのはプレーンですが、オレンジピール、ヨモギ、ビーツもあります。ヨモギは三丘地区で摘んだ地物(じもの)を、ビーツは地域で無農薬栽培されたものを使っています。
三丘産の小麦の力、さすがです! 次は、このバゲットをいただきますね。
酵母バゲットパンの写真

カリッと食感の酵母バゲットパン。イチジク、チーズ、フルーツミックスの3種類があります

クルミレーズンパンの写真

クルミの風味と食感、全体のずっしりもっちり感がたまらないクルミレーズンパン

外側はカリッと、内側は割と硬め。フランスパンに近い食感です。先ほどの食パンとは風味がまるで違います。生地に混ぜられたドライフルーツの影響もあると思いますが、パン生地自体がちょっと違うような…。
よくお分かりで! こちらは果物から育てた酵母を使った「酵母バゲットパン」です。食パンとは酵母が異なるので、風味も違うんです。生地に混ぜ込んだイチジクは田布施産で、自分たちでスライスしてドライにしています。三丘文庫では一番硬いパンで、細くカットして食べるのをおすすめしています。三丘産小麦とフルーツの風味が一度に味わえるとリピーター続出の商品で、種類は他にチーズやフルーツミックスがあります。
いや〜、すごくぜいたくな味わいですから、リピーターが多いのも納得です。最後はこちら、クルミレーズンパンをいただきます! おお、持ち上げたときのずっしり感、外側から見ただけでもわかるたっぷりのクルミ。これは食べ応えありそうです。では一口サイズにちぎって…。
クルミの香ばしさ、レーズンのほんのりとした甘酸っぱさ、そして、三丘産小麦の香り…。なんて満足感の高いパンなのでしょう!
このクルミレーズンパンには、多くの方から「一度食べたらクセになる」との感想をいただいています。クルミとレーズンをたっぷりと入れているからこその味わいです。そのままでも十分おいしいですが、もう一度トーストしていただくと、クルミの香ばしさがさらに増しますよ。
どれもおいしくて、県産小麦「せときらら」の実力に圧倒されました。こんなおいしい小麦を学校給食で味わえているなんて、今の子どもたちがうらやましいです。
私たちは、山口県に限らず、「せときらら」をどこのスーパーでも買える身近な存在にするべきと考えています。国産小麦をもっともっと増やしたいんです。現在、輸入小麦は80パーセントを超えていますが、世界情勢などさまざまな要因で高騰し続けています。今こそ全国各地で国内産小麦の生産に積極的に取り組み、日本の食物自給率を上げるタイミングではないでしょうか。
三丘文庫は、山口県だけでなく、日本全体における国産小麦の普及について考えておられるのですね。さて、こちらではベーカリーショップのほか、ブックスライブラリーやイベントもされているようですが、少しだけお話をお聞きしてもいいですか?
三丘文庫の蔵書の写真

ずらりと並ぶ本は、徳永さんセレクト。幅広いジャンルがそろっています

三丘文庫のイベントの様子の写真

コロナ禍前に実施したイベントの様子。店内はイベントや会議の会場として貸し出すことも

本は私の趣味で集めた私物です。販売や貸出は基本行っていませんが、店内にある掘りごたつ席やソファ席で自由に読んでもらっています。時々、山口県にゆかりのある作家さんの本を販売するコーナーを設けることもありますよ。店内奥のステージでは、コロナ禍以前は地元の音楽仲間が集まって演奏したり、ゲストを招いてコンサートを開いたりしていました。図書館で開催していた音楽会を今はここでやっているという感じです。コロナが落ち着いたら再開したいですね。
そうだったんですね。こうして取材を行っている間も、何人ものお客さんが訪れて、皆さん気ままに過ごされています。三丘文庫はもうすっかり地域の憩いの場ですね。
三丘文庫を通じて人の輪が広がり、集まることで何か新しいものが生まれ、地域が元気になったらうれしいですね。私の体力の続く限り、せめて後10年はこの三丘文庫を続けようと思っています!
10年と言わず、もっともっと長く続けてください! 今日は貴重なお時間をありがとうございます。次はぜひこちらで開催されるイベントにもお邪魔させてください。

【取材を終えて…】

三丘文庫のパン販売日は主に金・土曜ですが、遠方から訪ねる場合は三丘文庫facebookページでの事前確認をおすすめします。
さて、地域の皆さんの「パンを作りたい!」という声がきっかけで、パン作り、そして、「せときらら」に情熱を注ぐようになった徳永さん。実は、三丘地区が行っている「みつおずっと子どもがいるまちプロジェクト」の環境部会の部会長も務められています。「これから先も三丘に子どもたちの声が響いてほしい」という思いから始まったこのプロジェクトにおいても、徳永さんは大奮闘。三丘文庫から少し離れた場所にある「三丘ゆめ広場」には、徳永さんたちにより「学びの椅子」や「ゆら〜りブランコ」など高さ約4メートルの巨大作品が設けられ、三丘の観光スポットの一つとなっています。徳永さんの「せときらら」を思う気持ち、地域を思う気持ちが一人でも多くの人に届くことを願うばかりです。
余談ですが、自分のお土産にと大量にパンを買って帰りました。私の一番のお気に入りはミルクパン。買い占めてくればよかったと思うほど、おいしかったです。三丘文庫を訪れた際は、ぜひ食べてみてください。