トップページ > 2022年1月28日 食レポ!! やまぐち
食レポ!! やまぐち

山口市阿東編 やまぐちシードル

山口県の各地域の新しい食、気になる食をレポート!! 第20回は山口市阿東編です。
今回ご紹介するのは、山口市阿東地域特産の「徳佐りんご」を使ったスパークリングワイン「やまぐちシードル」! かつて山口市で地域おこし協力隊として活動していた原田尚美さんによる地域活性化プロジェクトから誕生したお酒です。
山口市阿東の自然の恵みをいっぱいに受けて育った「徳佐りんご」のシードルは、一体どんな味がするのでしょう…? それでは早速、販売所に行って開発者の原田さんにお話を聞いてきます!
取材をするきらりんのイラスト
「やまぐちシードル」の販売所の写真

「やまぐちシードル」の幟(のぼり)がはためく販売所。ほのぼのとした普通の縁側です

原田尚美さんの写真

開発者の原田尚美さん。関西から地域おこし協力隊として山口市にUターンしたそうです

 
「縁側販売所」と聞いていましたが、本当に「縁側」ですね!
そうなんです(笑)。山口市内にある私の実家の縁側を販売所にしています。平机を置いて、商品を並べただけですが、親しみやすさがありませんか? 営業日時は毎週水・土曜日の11時から16時と、週に2日ですが、住宅街にもかかわらず買いに来てくださる方が結構います。
 
確かに親しみやすい! 原田さんはなぜ「やまぐちシードル」を開発しようと思われたのですか?
以前、関西で会社員をしていましたが、ある時、「地域特性を踏まえた持続可能なビジネスモデルの構築」をミッションとする地域おこし協力隊が山口市で募集されているのを知り、思い切ってUターンしました。実は会社員をしながらも自分にしかできない仕事を模索しており、まずはいろいろなことにチャレンジしようと援農ボランティアや里山再生活動に参加していました。活動をしていく中で、「農と食と人をつなぐ仕事」をしたいと思うようになっていたちょうどその時に見つけた募集だったので、私にとってはまたとない機会だったんです。協力隊員となった当初は、山口市のブドウでワインを作ることを考えていましたが、徳佐りんご組合の組合員さんとの出会いから徳佐りんごを使ったシードル作りへと気持ちが向かっていきました。
徳佐りんごのどんなところを知って気持ちが変わったのですか?
山口市阿東徳佐地区は、皆さんご存じの通り、西日本有数のリンゴの産地です。地元のリンゴ生産者の皆さんが「ふじ」を中心に約30種類を生産し、観光農園でリンゴ狩りを実施したり、道の駅や地元スーパー、加工食品会社などへ販売しています。つまり、山口市にとって徳佐りんごは、もともとある地域の特産果実。ならば、山口市にゼロからワイン用のブドウを植えてお酒を作るよりも、馴染み深い徳佐りんごを活用したシードルを作った方が「人や地域をつなぐお酒」になるのではと思ったんです。
自然豊かな山口市阿東の風景写真

自然豊かな山口市阿東。原田さんはこの四季が感じられる景色が大好きなんだそう

徳佐りんごの木の写真

徳佐りんごは温暖な気候で育つため、国内有名産地に比べて糖度が高いのが特徴

なるほど。地域特産果実のお酒なら、地元民は「一度は飲んでみよう」と思いますね。プレゼントにも良さそうです。ところで、シードルはどこで作っているのですか?
私には酒類製造免許がなく、山口県にはシードルの醸造所もありませんから、長野県の醸造所に徳佐りんごを送って、そこで加工してもらっています。もちろん、阿東まで足を運び農園で摘果作業に参加させてもらったり、可能な限り醸造所まで行き、さまざまな工程に立ち会わせてもらっています。ただ、もっともっと自らの手によるシードル作りがしたいですし、シードル作りを通じて人やコトの出会いの場を提供していきたいと思っています。そして、いずれはそのシンボルとなる醸造所を山口市に構えるつもりです。その実現に向け、まずは現在の2倍の生産量にすることを目標に製造・開発に取り組んでいます。
農園で作業中の原田さんの写真

農園で作業中の原田さん。生産者さんたちとの関わりの中で、リンゴ栽培の大変さを学んだという

「やまぐちシードル」が作られている長野県の醸造所の写真

「やまぐちシードル」が作られている長野県の醸造所。いずれは山口市阿東に醸造所を造る予定!

すてきな目標ですね! 原田さんの山口市への思い、徳佐りんごへの思いが伝わってきます! 現在、販売中の「やまぐちシードル」は2種類ですか?
日本海、瀬戸内海、響灘(ひびきなだ)の三方の海から山口県に吹き込むすがすがしい潮風をイメージした辛口の「UMI(海)シードル」と、自然あふれる山口県の穏やかな山々をイメージした甘口の「YAMA(山)シードル」の2種類です。山口県の新鮮で豊富な海の幸、山の幸を引き立てる食中酒としてそれぞれ企画・製造しました。
辛口、甘口の2種類があるんですね。では、今回は辛口の「UMI(海)シードル」をいただきます!
「YAMA(山)シードル」(左)と「UMI(海)シードル(右2本)の写真

一番左が甘口の「YAMA(山)シードル」。右の2本は辛口の「UMI(海)シードル」

「UMI(海)シードル」をグラスに注ぐ様子の写真

ほんのり黄金色をした「UMI(海)シードル」。海の幸に合うスッキリとした飲み口です

栓を抜くと同時にふんわりと漂う爽やかなリンゴの香り、そして、控えめながらも心地よいシュワシュワという発泡音。これだけでもテンションが上がります! 早速ひと口…。おお、飲みやすい! 程よい辛口でスッキリとした飲み口。あ、リンゴの風味もしっかり感じられますよ。まさに食中酒にぴったりというおいしさです!
「UMI(海)シードル」は、発酵を進めることで糖分がアルコールに変換されるので、辛口に仕上がっています。これに比べて「YAMA(山)シードル」の方は、浅めの発酵にすることで低アルコールかつ甘口に仕上げているため、女性やあまりお酒が得意ではない方、初めてお酒を飲む方におすすめしています。ぜひ飲み比べていただきたいですね。
現在販売中の「UMI(海)シードル」は7%、「YAMA(山)シードル」は5%のアルコール度数ですか。確かに初めてのお酒にいいですね。ただし、グイグイ飲めてしまうので、飲み過ぎには注意といったところでしょうか(笑)。サイズはそれぞれ750mlと375mlがあるんですね。この縁側販売所以外だったらどこで購入できるのでしょう?
山口市内にある対面接客型の酒屋や道の駅、県内の一部スーパーにて販売しています。扱ってくれている皆さんは、私の「商品だけじゃなく思いも届けたい」という考えに共感してくださっている方々なので、安心してお任せしています。
今後、新商品が登場する予定はあるのでしょうか?
2020年9月に山口県に上陸した台風10号が阿東のリンゴ農園を直撃し、たくさんの若いリンゴが落下しました。「台風で落ちたリンゴを捨てたくない。どうにか活用したい」という私の思い、そして、以前から未熟果の酸味と渋味がシードルに適しているかもしれないと考えていたことを生産者の皆さんに伝え、すぐに収穫前日数と衛生面に問題がないことを確認して、未熟果のシードルの醸造に踏み切りました。結果、400本のシードルが完成し、しかも思った通りのテイストに仕上がったのはうれしかったですね。そのシードルをブラッシュアップし、「KAZE(風)シードル」と名付け、JR西日本が実施する「てみて市場」でお披露目販売会を行ったところ、2日間で準備した98本が完売し、手応えを感じました。今後、「やまぐちシードル」の代名詞となり得るこの「KAZE(風)シードル」の正式な商品化を進めていきたいです。
「てみて市場」の様子の写真

2日間で「KAZE(風)シードル」98本が完売した「てみて市場」の様子

「阿東MAP」の写真

阿東を盛り上げる、自分達も盛り上がるために結成した「あともり」で作った「阿東MAP」。阿東の情報が満載!

原田さんは「やまぐちシードル」の他に、山口市阿東を盛り上げる女性の会「あともり」(正式名称は、「阿東を盛り上げたい女性のネットワーク」)の活動もしていると聞いています。
地域おこし協力隊の任期終了直前に、阿東の同世代の女性とこれからのことを話していた時に、「阿東を盛り上げたい!」「阿東で盛り上がりたい!」という共通した思いがあることに気づき、阿東を盛り上げたい女性のネットワーク「あともり」を結成しました。メンバーは20代〜50代で、主婦や農家、自営業、会社員などみんなそれぞれ立場が違いますが、楽しみながら活動を続けています。「一緒に阿東を盛り上げる仲間を増やしたい。まずは阿東を知ってもらいたい」という目的で「阿東の四季MAP」も作りました。春夏秋冬それぞれ1部ずつの計4部、五感で楽しめる阿東の四季の魅力を盛り込んだマップです。見かけたらぜひ手に取ってみてください! そして阿東へ足を運び、お土産には徳佐りんごと「やまぐちシードル」をお忘れなく(笑)!

【取材を終えて…】

生産者の皆さんと関わるにつれ、原田さんの中でシードル作りの存在意義が明確になっていきました。自然相手の厳しい仕事であることはもちろん、担い手不足の状況や規格外リンゴの存在など、シードルが事業として確立することで、それらの課題が一つでも解決できるのではと考えたといいます。シュワシュワとした爽やかな徳佐りんごのシードルは、実は原田さんや生産者さんたちの情熱の塊とも言えるのです。
山口市阿東に醸造所ができた暁には、ぜひ訪問したいと思います。原田さん、そして、山口市阿東の皆さんのパワーがあれば、きっと実現される日は近いはず!
ちなみに、撮影で開けた「UMI(海)シードル」は、あっという間に空になりました。文章を書いていると、また飲みたくなりますね。さて、次は「YAMA(山)シードル」を買いに行きますか!