トップページ > 2021年6月25日 食レポ!! やまぐち
食レポ!! やまぐち

萩市・阿武町編 日本酒「GI萩」

山口県の各地域の新しい食、気になる食をレポート!! 第13回は萩市・阿武町編です。今回紹介するのは「GI萩」。近年、山口県の日本酒の人気が全国的に高まる中、今年3月、萩市と阿武町にある六つの酒造会社(※1)が醸造する日本酒が、国税庁から「地理的表示(GI)制度」に指定されました。GIの指定は酒類では中国・四国地方で初めて!! 品質チェックの審査会へ出品し、認定された商品に「GI萩」の表示を付けての販売は、6月13日から始まりました。気になるGI萩について知りたくて、その六つの酒造会社の一つの社長で杜氏(とうじ)も務める萩地区地理的表示管理委員会会長・岩崎喜一郎(いわさき きいちろう)さんに話を伺います!!
取材をするきらりんのイラスト
萩地区地理的表示管理委員会会長の岩崎さんの写真

萩地区地理的表示管理委員会会長の岩崎さん

GI萩の酒6銘柄の写真

GI萩の特性は「米のふくよかで上品なうま味と爽やかな酸味」

お酒の地理的表示(GI)は「お酒について『正しい産地』であることと、『一定の基準』を満たして生産されたことを示す(※2)」国税庁の制度だそうですね。GI萩の生産基準。分かりやすくいうと、主にどういうことでしょうか?
萩・阿武産のお米と、産地の範囲内で採水した水を原料とし、産地内で醸造、貯蔵および容器詰めが行われた日本酒であること。かつ、米のふくよかで上品なうま味と爽やかな酸味を主体とし、吟醸酒は果実の香りを感じることができるなど、一定の要件を満たした日本酒であることです。
麹室(こうじむろ)での麹づくりの様子の写真

麹室(こうじむろ)での麹づくり(萩市中心商店街にある酒蔵)

もろみ仕込みの様子の写真

もろみ仕込み(阿武町にある酒蔵)

仕込みタンクをかくはんする様子の写真

仕込みタンクをかくはん(萩市川上地域にある酒蔵)

仕込みタンクの作業の様子の写真

仕込みタンクの作業(萩市椿東にある酒蔵)

GI萩の特性について、国税庁のホームページには「香りは芳醇(ほうじゅん)なバナナ、メロン、ライチに加えて青竹、新緑のものを感じる事ができる」…ともありますね。
お酒の種類や蔵の違いによって、その香りは少しずつ違いますが、GI制度の目指すところは、お酒については、ソムリエやお店の方が「この地域のお酒には、こういう特性があります」とお客さんに分かりやすく説明できるようにすることにあるそうです。
なるほど!! お酒の特性には、酒造りの技はもちろん、自然的要因も大きいそうですね。
はい。萩・阿武地域の酒造りに用いられる水は、花こう岩などの火山性の岩石に起因するミネラル分の少ない“軟水”。その軟水で仕込む酒は、柔らかく、ふくよかで上品な味になりやすいんです。また、萩・阿武地域の酒米作りは主に中山間地域の標高の高い台地で行われています。そうした地域は、水はけや日当たりが良く、夏の気温差が大きく、酒米作りに向いているんです。
杉玉がつり下げられた酒蔵の外観の写真

杉玉がつり下げられた酒蔵の外観(萩市田万川地域)

銘柄が染め抜かれた日よけのれんが印象的な酒蔵の外観の写真

銘柄が染め抜かれた日よけのれんが印象的な酒蔵の外観(萩市むつみ地域)

萩の自然があってこそなんですね。
そうですね。自然以外にも豊富な食材に恵まれていることなども評価されていて、萩の特産品である白身魚や、かまぼこなどの淡白な食品とよく合うこと、萩焼や萩ガラスなど、萩ならではの酒器があることもGI萩の特性です。
GIに指定されたことへの反響はありますか?
はい。コロナ禍の今、巣ごもり需要と言われますが、日本酒の売り上げは厳しく、酒蔵はどこも苦しい状況です。近年、山口県の日本酒は注目されてきましたが、それは飲食店などを中心とした外食での需要に支えられていたからで、家庭には入り込めていなかったことが分かりました。そうした中、GI萩に注目していただいていることは、とてもありがたいです。萩・阿武の6社は、地元では本来ライバル。でも、県外や世界へ視野を広げれば、同じ思いを持つ仲間です。「萩を日本が誇る日本酒の一大産地にするんだ!!」「みんなで束になってやるぜ!!」という思いでこれからもやっていきます。
いいですね!! 昨年は皆さんで純米大吟醸「コロナに負けるな!」を2回発売。最初はそれぞれの地酒をブレンド。2回目は協力しながら醸造。そうした連携も話題になりました。
ファンと一緒に田植えをする様子の写真

ファンと一緒に田植え。令和元(2019)年5月撮影

稲刈りのイベントの様子の写真

稲刈りのイベントも行っています。令和元(2019)年10月撮影

それもGI萩の指定へ向けて6社が交流を重ねていたからできたことです。私たちはファンの皆さんと田植えを行い、収穫した山田錦を使って純米吟醸「みがき6(シックス)(※3)」を醸造、発売もしています。また、地酒と料理を楽しむイベント「やっぱ萩の地酒でnight!」も開催。今年11月にも萩中心部の商店街で開催する予定です。GI萩は特徴がある酒であることを、まず地元の皆さんに再認識してもらい、そして世界へ向けて発信していきます。今回、GI萩の表示を付けた地酒の販売開始を機に、6社の純米吟醸など300ミリリットル6本セットを数量限定で販売することになりました。6本セットは売り切れ次第、販売終了です。ぜひお買い求めください。
酒瓶に貼られたGI萩の表示シールの写真

これがGI萩の表示

GI萩の表示シールが貼られた萩・阿武の地酒の写真

その表示を付けた萩・阿武の地酒

(取材の後日、販売開始日に6本セット、購入しました!)
日本酒の大ファンのスタッフが嬉々として味わった感想を届けてくれました。1本目は、口当たりの良さとキレのいい甘さが特徴。2本目は、フルーティーな吟醸酒とは一線を画す、しっかりとしたおいしさ。3本目は、ほど良い吟醸香が心地よい爽やかな辛口。4本目は、米のうま味をストレートに引き出した、どっしりとした辛口。5本目は、軽快でジューシーな甘さながら深みのある味わい。そしてラストは、まろやかな口当たりで厚みのある、ふくよかな甘さで個性的な味わい…。皆さんもぜひどうぞ。

【取材を終えて…】

山口県の日本酒は全国で唯一、12年連続で出荷量が増加していました!! 特に近年は海外への出荷が好調。でも、昨年はコロナ禍で13年ぶりに出荷量がダウン。これは何としても応援したいところ。この取り組み、そもそもは平成29(2017)年に、酒蔵6社と複数の集落営農法人で「萩酒米みがき協同組合(みがき6(シックス))」を設立し、酒米作りに加えて、酒米の精米工場を設置・運営してきたことに始まるそうです。酒蔵と集落営農法人による精米工場は当時、全国で初めて。それまでは県外の精米工場へ酒米を送っていましたが、地元での精米を可能にしたことで酒蔵はコストダウンを実現。さらに酒米作りから醸造、販売まで“地元で一貫して行う体制”も構築できたメリットも生まれたそうです。特に酒米の生産者の皆さんに「いい酒造りのためには、タンパク質の含有量の少ない酒米が欲しい(※4)」と直に伝えることで「生産者の皆さんと同じ方向を向いて酒造りができるようになったことは大きいです」と岩崎さん。ところで山口県の地酒もかつては苦境の時が長くありました。萩・阿武地域では、従来「大津杜氏(※5)」が酒造りの現場の責任者となって蔵人を率いていました。苦境が続く中、蔵元(酒造会社の経営者)自らが酒造りを行う蔵元杜氏が増え、近年では大津杜氏の伝統を踏襲しながらの上質で新しい酒造りにファンがぐんぐん増加。地域の酒蔵に支えられ、酒造りを34年ぶりに復活させた酒蔵もあります。また、萩・阿武地域の地酒は、来日したプーチン大統領に絶賛されたことでも話題になりました。このコロナ禍を、どこの酒蔵も無事に乗り越えてほしいものです。GI萩の販売については、酒販店などにお問い合わせください。
  1. 阿武の鶴酒造・岩崎酒造・岡崎酒造場・澄川酒造場・中村酒造・八千代酒造。本文※1へ戻る
  2. お酒にその産地ならではの特性が確立されており、産地からの申立てに基づき、国税庁長官の指定を受けることで産地名を独占的に名乗ることができる制度。国税庁のホームページによる。本文※2へ戻る
  3. 六つの酒蔵と複数の集落営農法人(現在は14法人)で設立した「萩酒米みがき協同組合」の別称。本文※3へ戻る
  4. 酒造りにおいて、タンパク質が多過ぎると味わいがくどくなり、苦みや渋みにつながるため。本文※4へ戻る
  5. 旧日置町を中心とした地域で現在の長門市出身の杜氏。本文※5へ戻る